李朝滅亡

「李朝滅亡」という本を読みました。著者は片野次雄さんで、出版社は新潮社です。一九九四年に出版されています。明治の初めから大正、そして昭和と、軍事大国日本の陰で数々の圧迫を受け、ついには潰えた李王朝の物語です。それは同時に朝鮮半島に住む人々の苦難の歴史でもあります。

私も帝国主義時代のロシアや中国、日本、それに欧州や米国も加わる覇権争いの中で、朝鮮半島の人々の歴史に翻弄される姿や、「日帝三十六年」と朝鮮半島の人々が今も恨みを込めて呼ぶ一九一〇年の日韓併合から一九四五年の日本の敗戦までの屈辱の時代について色んな本も読んで来ました。

しかし歴史書からは十分に人々のうめきの声は聞こえて来ません。今回読んだ本は著者の「はじめに」の言葉にあるように、史実を踏まえたうえで、主要な人物たちの挙動や肉声を想像し、イメージを作り上げてあります。それだけに朝鮮半島の人々の悔しさや怒りや恨みがより鮮明に伝わって来ます。

太平洋戦争の始まった一九四一年に生まれ、自分自身は日韓併合やその後の日本軍や憲兵隊による圧制に直接の関与はないものの、私は祖国日本を愛する日本人の一人として、このような事実を知ると、心が潰れるように痛みます。しかし私の痛みごときは、実際にそれを体験した人々の痛みには例えようもないことも判ります。

私達に何が出来るのでしょうか? やはりそれは歴史の事実を知り、そして苦しみの中で死んで行った人々や傷ついた人々の思いの一端を感じることではないでしょうか? それは決して自虐的歴史観などではなく、隣国の人々との理解と友好をはぐくむ第一歩なのではないだろうかと思っています。

戦後六十年余り、日本は平和の中で過ごして来ました。戦いにより他国の人を一人として殺害していません。これは素晴らしいことであり、誇るべきことです。しかしその素晴らしさや誇りを真に強化するためには、戦後に生きる戦争を知らない私達も歴史の事実を知り、他国の人々が受けた苦難の事実を知ることが大切であると感じています。(終わり)

[鶴亀 彰]

 

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