オバマ時代の始まり

オバマ大統領の就任式やパレードに各地からワシントンに集った百五十万とも二百万とも言われる人々は人種や性別、年齢を問わず、笑顔に溢れ、喜びに満ちていた。オバマ大統領が宣誓を終えた瞬間、彼らの眼は輝き、濡れていた。大歓声に揺れ、打ち振る旗の波が広がった。全ての人々の自由と平等を謳いながら、現実には差別や機会不均等が残るアメリカが真にその理想の実現に向けて動き出した新しい時代への希望と誇りが渦巻いていた。

テレビを通じて就任式に参加した多くの人々もオバマ大統領が伝えるアメリカが現在抱えている問題の大きさに頷き、しかし国民全体が一致協力し、お互いに助け合うならば必ずアメリカは再生するとの希望のメッセージに勇気付けられた。オバマ大統領が呼び掛けたRemake America Together(一緒にアメリカを再生させよう)の言葉に答え、国民は行動を始め、すでに全米中で1万3千以上のボランティア・イベントが行われたと言う。

そのイベントは国民一人一人が自分の住む地域で自分が出来るささやかな奉仕を行うものである。例えば、近所に住む寝た切り老人に温かい手作りのランチを届ける運動とか、学校での勉強が遅れている近所の子供に無料の家庭教師役を行うとか、実にさまざまな形での隣人愛の発露である。もともとキリスト教の博愛の精神が根っこにあるアメリカではボランティア活動は極めて日常的である。学校や病院や図書館や敬老ホームや幼稚園などの運営はそれなしには成り立たない。

ボランティアは決してお金や時間に余裕のある人だけがやるものではなく、貧者の一灯のように気持ちさえあれば誰でも出来るものである。寝た切りの老女が毎日二時間だけ電話で身寄りのない孤児院の子ども達とおばあちゃん代わりにおしゃべりをするボランティアなどもある。政府や行政に任せるだけでなく、地域住民が率先して自分の出来る範囲でより安全で幸せな地域作りに参画すれば、犯罪防止や困窮している人々への支援が実現出来る。

国民の積極的な奉仕を呼び掛けると共にオバマ大統領は多種多様な価値観の共生を呼び掛けている。それは国内での意見の違いだけでなく、世界の国々との関係でも、お互いを尊敬し、理解し合い、協力し合う姿勢である。前大統領のブッシュさんの善か悪か、敵か味方かと言うような二元的な捕らえ方でなく、グローバル化、多様化が進む新しい時代の中で、寛容と忍耐を呼び掛けるものである。また地球温暖化防止や世界の飢餓の解決などにも積極的に努力するようである。

人類の歴史上で中世以降は大航海時代、産業革命時代、帝国主義時代と、白人優位の時代が世界を覆った。世界一のスーパーパワーであるアメリカの最高司令官が黒人になった意義は大きい。まだまだ時間は掛かるだろうが、グローバル化し、多様化が進む世界の中で、肌の色に関わらず、誰もが平等に、自由に生き、全ての国家が協力し合い、人類共通の問題の解決に智恵を結集する夢の時代に向けて、そのささやかな一歩が踏み出された思いを私は感じている。(終わり)

[鶴亀 彰]

 

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